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小沼 丹『清水町先生』ちくま文庫

 小沼が師と仰いだ井伏鱒二について語る随筆を集めているが、将棋ついて少しばかり紙が費やされている。原稿を書かなければいけなのに将棋で暮れる一日を、それに付き合った弟子の視点からユーモラスに書いた一篇があり、これは冒頭に配されている。

 続いていくつか師の将棋好きに関する思い出が綴られるのだが、そこに「加藤一二三」の名前が登場する。しかも「まだ若いが」という表現とともに。

 これは、ひふみんではないか。ひふみんだ。そうなのだ。加藤一二三は長い人生を将棋とともに生き、どうしてなんらかの内臓疾患にかからないのかよくわからない食生活を続けながら2017年の今も、なかなかの長生きをしているわけだが、井伏のようなモノクロ写真のイメージの人物との邂逅があったのだ。わたしはすぐに、ひふみんと井伏のウィキペディアを見た。それによるならば、ひふみんは昭和15年・1940年生まれ。井伏は明治後期に生まれ、1990年代初頭に死んだ。井伏もまた、なかなかの長生きだ。彼の晩年がどんなものであったのかよく知らないが、「ああこの先生は、わたしと同時期にこの世にあったこともあるのか」と思った。

 本書において加藤一二三井伏鱒二の邂逅は、井伏の“くえない人物”像を補強するエピソードとして綴られている。小沼より井伏のほうが将棋の筋がいいと、若き加藤一二三が言った。そのことを、小沼が書いていた。

 

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